日本旧石器学会
日本列島の旧石器時代遺跡

宮ノ前遺跡  Miyanomae site
■ 後期旧石器時代後半〜縄文時代草創期

1.遺跡の位置・周辺環境


写真1 宮ノ前遺跡遠景(岐阜県・宮川村教育委員会2000『岐阜県吉城郡宮川村 宮ノ前遺跡発掘調査報告書(U)』より)(AIカラー化)

 宮ノ前遺跡は岐阜県最北端の飛騨市(旧宮川村)に位置し、神通川支流の宮川西岸、標高430mの河岸段丘上に立地する(写真1)。宮川ではチャート・玉髄が採取でき、主要な石器石材として使用されている。下呂石の原産地として知られる湯ヶ峰からは北方約60qに位置し、宮ノ前遺跡では下呂石の角礫が石器に用いられている。


2.調査の経緯

 宮ノ前遺跡は昭和初期から縄文時代遺物の出土で知られていた。1989〜1995年に国道改良工事に伴って発掘調査が実施され、後期旧石器時代から縄文時代を主とする遺物・遺構が出土した。確認された低湿地からは豊富な自然遺物も得られ、古環境復元がなされた。この成果を受けて、1994・2000年には範囲確認調査も実施された。

 出土資料は飛騨みやがわ考古民俗館(リンク)にて収蔵・展示されている(不定期開館)。

3.石器群の概要


写真2 宮ノ前遺跡 白滝型細石刃石器群の黒曜石製石器と原産地分析結果(青木撮影)

 宮ノ前遺跡の旧石器資料は、@横長剥片を素材としたナイフ形石器を伴う石器群、A稜柱形細石刃核を伴う石器群、B湧別技法白滝型細石刃核を伴う石器群の3つに大きく区分される。@は瀬戸内技法との関連が想起されるものであり、Aは加工痕の可能性ある木質遺物や植物・昆虫遺体などの出土で注目される。

 Bの湧別技法白滝型細石刃核を伴う石器群は、同石器群として最も西に位置し、同層位から神子柴型尖頭器や隆起線文土器片も出土するなど、旧石器―縄文時代移行期の様相を示すものとして位置づけられる。また、同石器群の黒曜石製石器を対象とした原産地分析では魚津など富山県産や信州系のほか、遺跡から450km以上離れた秋田県男鹿産を含むと推定された(写真2)。製作技術の分析をもとに、北海道から流入し本州東北部を南下したと想定されてきた同石器群の足跡を、石材研究からも裏づける資料として評価できる。

(青木要祐)

用語

湧別技法:北東アジアを中心に分布した細石刃製作技術。本州へはシベリアから北海道を経由して伝わったとされる。製作技術の特徴から、日本列島では札滑型と白滝型の2つに分けられる。
黒曜石:火山から噴出したマグマが固まってできた火山岩の一種。割れると鋭い縁辺を生じることから、石器石材として用いられた。
黒曜石原産地分析:マグマごとに異なる性質をもつ黒曜石の特徴をもとに、出土した石器がどの原産地の黒曜石で作られているかを分析する方法。宮ノ前遺跡の分析では蛍光X線分析装置を使用し、化学組成をもとに原産地を判別した。

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